完全に独立と自由を勝ち得たわけではない

それでも15世紀以降の「完全なモノ扱い」から、彼らは少しずつ白人社会と友好的な関係を築いていく。

そんな空気を描くのは『風と共に去りぬ』。主人公スカーレットにため口をきく女奴隷マミーは、ちゃんと人間として扱われているし、マミーを演じたハティ・マクダニエルは、黒人で初めてアカデミー賞を受賞している。逆に言えば1940年まで、黒人俳優には栄誉は与えられなかった。

奴隷解放戦争でもある南北戦争は1861~1865年。19世紀中ごろにやっと奴隷解放の機運が高まった訳だが、黒人が完全に独立と自由を勝ち得たわけではない。

『カラーパープル』の舞台は南北戦争から50年後の1900年代(20世紀)初頭。形だけ解放されたものの、彼らは「黒人しかいない町」で暮らし、白人社会とは隔絶している。

白人からの差別は根強く、私の大好きなソフィアは、白人の市長の嫁に「メイドにならない?」と言われて断り、その侮辱にお得意の「平手」で応えたため、6年も投獄される。抵抗も大切だが、相手を間違うと人生台無しである。(涙)

そんな社会の圧力を小さいうちから体で覚えさせられた主人公セリーが、「生き延びるためには逆らわない」態度を身に付けたのも仕方がないと思えてくる。実際、私の母もそんな人だった。「女の人生は不幸で当たり前」と思い込み、どんなに父に殴られても離婚出来なかった。

私はそんな母に「やる気になれば自立し、離婚できるはずだ」と言い続けた。大人になってからは、実行してみせたくて、家を出て漫画家になった。

が、母は自分にできなかったことを成し遂げた娘を決して褒めなかった。認めてしまえば「我慢が人生」と耐えてきた自分の人生が無駄になってしまうからだろう。それは彼女の精一杯の保身だったと今は思う。