稚拙化を防ぐには

維持管理のためにオリジナルをはずし、複製に入れ替えるのは仕方ないことでしょう。今の時代は幸いなことに複製技術が非常に発達していて、近くで見てもオリジナルかコピーか、見極められないほどすばらしいものができるようになっています。

しかし、そのような技術力があるにもかかわらず、近年展示された二の丸御殿の襖絵や壁画は、金色のラッピングペーパーのような質感でした。

稚拙化を防ぐには、管理者側の信念がまず問われることになります。二条城でも、「ここは将軍と大名が謁見した格式高い場所である」という認識が管理者側にしっかり根付いていれば、このような複製のクオリティにはならなかったでしょう。

文化財を管理している人たちには、「保存」と「維持」だけではなく、次世代の日本人と訪日外国人に、日本文化の真髄を伝える義務があります。予備知識のない観光客だからこそ、質の高いものを見てもらい、その「目」を底上げする努力が必要です。

幸い、オリジナルの襖絵は敷地内にある「二条城障壁画展示収蔵館」に保管されています。二条城を訪れる人は、二の丸御殿を回った後に、こちらで本物を見ることをおすすめします。

観光には教育的な側面も含まれます。分からない人たちに合わせて稚拙化を行うのではなく、最高のものを親切な形で提供してこそ、文化のレベルアップは果たされるのです。

※本稿は、『観光亡国論』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。


観光亡国論』(著:アレックス・カー、清野由美 中公新書ラクレ) 

右肩上がりで増加する訪日外国人観光客。京都、富士山をはじめとする観光地へキャパシティを越えた観光客が殺到し、交通や景観、住環境などでトラブルが続発する状況になっている。本書は作家で古民家再生をプロデュースするアレックス・カー氏とジャーナリストの清野由美氏が、世界の事例を盛り込みながら、建設的な解決策を検討する一冊。真の観光立国を果たすべく、オーバーツーリズムから生じる問題を克服せよ!