顔の図式を描いた画像を眺める時間が最も長かった

そもそも、ファンツは、視覚経験のまったくない新生児は、パターンや色といったものをどのくらい認識する能力があるのかを調べるために研究を行っていました。

生後10時間から5日までの新生児をベビーベッドに寝かせ、そこから30センチメートルほど上にある布にプロジェクターで画像を投影して新生児に見せます。

すると、赤や黄色といった色や、新聞記事のような細かい文字の画像を眺める時間はとても短かった一方で、顔の図式を描いた画像を眺める時間は、最も長かったのです。

この研究により、人間には社会的な情報を含む顔を生まれつき好んで見るような生得的な機構がそなわっている可能性が浮かび上がってきました。

その後、この生得的に顔に注目するという発見が本当に確かなものなのかを、さまざまな研究が検証してきました(*2、3)。ファンツの実験は、生後5日の赤ちゃんも含んでいたため、その間に両親の顔を見たことが影響していたのかもしれません。

そこで、生まれてから数分しか経っておらず、明らかに顔を見た経験がない状態の新生児だけを対象に選んで研究が行われました。

まず、大きなしゃもじ型の板に、人間の顔のイラストと、その目や口の場所を入れ替えたイラストなどを描き、その板を新生児の顔の前でゆっくり動かしながら見せます(図1)。そして、それを見ている新生児の顔や目の動きを頭上のビデオカメラから撮影し、しゃもじに描かれた絵を追いかけて見る回数を調べたのです。

すると、刺激の条件統制がきちんと取られた実験でも、やはり新生児は、目や顔を動かして、人の顔のイラストを一番長い時間、眺めていることが確認されました。

<図1>新生児を対象にした方法(左)使われたイラストのイメージ(右)
右図は左から人の顔、顔の要素の位置を変更したもの、イラストのないもの。新生児は、目や顔を動かして人の顔が正しく書かれたイラストを一番長く眺めていた。 Johnson, M. H., Dziurawiec, S., Ellis, H. & Morton, J. Newborns' preferential tracking of face-like stimuli and its subsequent decline. Cognition 40, 1-19(1991)をもとに作成