「大木さんのお知り合い? 奥にいらっしゃるわよ。どうぞ」
 奥といってもそれほど広い店ではない。カウンターの向こうにボックス席が二つあるだけだ。その一つに大木がいた。別の男と二人連れだ。
 それが原磯だろうと、日村は思った。
 席に近づくと、大木が驚いたように言った。
「阿岐本さん。どうしてここに……」
 阿岐本がにこやかに言った。
「いやあ、評判のいいスナックがあると聞きましてね……」
 彼らの手前に若い女性が座っている。特に着飾っているわけではないが、若々しくて魅力的だと日村は思った。
 阿岐本が言った。
「あなたが、噂のアヤさんですか?」
 彼女は聞き返した。
「噂って……?」
「お店同様にとても評判がいいんですよ」
「あら、うれしい」
 そう言ってから彼女は、真吉に気づいた。「あら、真吉ちゃん」
 とたんに明るい表情になる。真吉の魔法は健在のようだ。