義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


     12

 甘糟は、どっと汗をかいている。ビビりながら必死だったに違いない。
「こりゃあ、助かりました」
 阿岐本が甘糟に言った。「私らをつけてましたね?」
「仕事だからね。だから言ったでしょう。目黒区なんかをうろうろしないでって……」
「いや、面目ねえ。でもね、こっちにもいろいろ事情がありまして……」
「いいから、もう地元に帰ってよ」
「わかりました。引きあげます。甘糟さんも乗っていかれますか?」
 甘糟が目をむいた。
「冗談じゃないよ。刑事がヤクザの車になんか乗れないよ」
「そうですか。じゃあ、私らこれで……」
 阿岐本と日村は、稔が待つ車に向かった。
 山門を出るところで、阿岐本はふと立ち止まり言った。
「甘糟さん」
「何?」
「この恩は忘れません」
 甘糟は慌てた様子だった。
「いいよ、そんなこと」
「いえ。ヤクザは、怨みも恩義も忘れねえんで……」