義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 阿岐本が田代に言った。
「私らに気づいて庫裏から出てこられましたね。追放運動の人たちを見張っていたんですか?」
「時々様子を見ていました」
「誠司から聞いたんですが、どうやら鐘の音にクレームをつけている連中も合流したようじゃないですか」
「そうらしいですな。じゃないと、あの人数にはならんでしょう」
「そいつはえらいことですね」
「えらいことだろうが何だろうが、俺は戦いますよ」
「ほう。戦いますか」
「ええ、理不尽な圧力に屈するわけにはいきません」
「追放運動なら、私ら慣れています」
「親分さん。それじゃだめだ。いいですか? 親分さんたちは何も悪いことをしていないんだ。俺の寺から追放される理由はないんだ」
「このご時世ではそうも言ってられないんです。暴対法や排除条例ができて以来、一般市民は私らを、すべての場所から追い出すことができるんです」