「山門の前に、追放運動の昔からの住民と、鐘の音に苦情を言う新しい住民が集まってきます。そして、それを規制するはずの警察も、お寺の鐘について苦々しく思っている。役所も住民の味方のようだ。それだけの勢力を敵に回して、住職お一人で戦いを挑んでいるようにお見受けします」
「そりゃあ、仕方がないでしょう。向こうが理不尽なことを言ってくるわけですから……」
「今のところ、味方はいないのですね?」
「味方などいりません。俺の寺は俺が守りますよ」
「原磯さんをご存じですね」
 田代は再び、目を丸くする。
「原磯ですか……。ええ、もちろん知ってますよ」
「私ら、今夜にでも原磯さんに会おうと思っています」
 田代はしばし、ぽかんと阿岐本の顔を見ていた。
「そうですか」
 田代が言った。「原磯と……」
「ええ。原磯さんは、『梢』というスナックでよく飲んでいらっしゃると聞きました。私らも『梢』に行ってみようと思います」
「そうですか……。あの……」
「何でしょう?」
「親分さんは、どうして原磯に会おうと思われたんです?」
「原磯さんは、駒吉神社の大木さんと仲がいいみたいですね?」
「ええ。よくいっしょに飲んでいるようですね」
「どうやら、原磯さんは駒吉神社の氏子総代になりたいらしいんです」
「ほう、氏子総代に……」
「そのあたりの話を聞きたいなと思いまして……」