「神社の縁日からテキヤを追い出したように……?」
「そうです。まあ、私らの同業者がずいぶん悪さをしましたから、それも仕方のないことですが……」
「いや。俺は納得いかない。悪さをした連中を取り締まればいい。何も悪いことをしていない親分さんたちを追放しようとするのは、やっぱり間違いだ」
「住職。そう言っていただくのはありがたいですが、私らは渡世の義理で、いつ住職に悪さをするかわからないんです。ヤクザってのは、そういうモンです」
「そんなのは、坊主だって似たようなもんです。とにかく、俺は戦いますよ」
「追放運動のほうは、まあよしとして、鐘の音のクレームのほうはそうもいかんでしょう。なんせ、役所や警察が味方してるんでしょう?」
「ええ。警察の有様をごらんになったでしょう。警察も俺の寺を目のかたきにしている」
「長いものには巻かれたほうがいいんじゃねえですか?」
「何度も言いますがね、鐘を鳴らすのはご先祖の供養のためです。寺に供養をやめろなんて言う権利は、誰にもありません。罰当たりもいいところだ」
「追放運動と鐘の音のクレームが結びついて、寺への圧力がどんどん大きくなるかもしれません」
「燃えますね」
「燃えますか……」
「ええ。圧力が大きくなればなるほど、戦い甲斐があるというものです」
「お一人で戦うのですか?」
「え……?」
 田代は不意をつかれたように目を丸くした。