「寺かあ……。そう言えばテツは、なんか坊さんみたいですよね」
 たしかにテツはヤクザより修行僧か何かに見えるかもしれない。
 日村はテツに言った。
「おまえ、今から坊さんの修行に出るか?」
 テツは何も言わず、きょとんとした顔をしている。
 代わりに健一が言う。
「坊さんになれば、食いっぱぐれはないかもしれませんね」
 日村は言った。
「そうでもなさそうだ。寺もなかなか厳しいらしいぞ」
「住民と揉めるし……」
「ああ、そうだ」
「じゃあやっぱり、自分は今のままがいいですね」
 そう言う健一は、どこか淋しそうだった。他にやれることはないと諦めているのかもしれない。
 若いんだから、何でもやれる。そんな慰めは、健一たちには通用しないと、日村は思った。ここにいる誰もが、これまで世間にさんざん迷惑をかけたのだ。
 今さら堅気になって、職を見つけようなんて虫がよ過ぎる。だから彼らは、オヤジの道楽に関わろうとする。社会との交わりがほしいのだ。
「そうだな」
 日村は言った。「俺たちはオヤジについていくしかないんだ」
「でも、今はそれが生き甲斐です」
 俺もそうだ。日村はそう思った。
 

 

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