車に戻ると、稔が尋ねた。
「事務所に戻りますか?」
 阿岐本がこたえる。
「そうしてくれ」
 車が出発すると、日村は阿岐本に言った。
「今日の田代住職は、なんだか変でしたね」
「おいおい、人を疑うのは警察官の仕事だぞ」
「でも、何だか隠し事をしているように思えました」
「そうかい」
「ええ。オヤっさんが原磯さんと会うとおっしゃったとき、ちょっとうろたえたような様子でした」
「おう、その原磯だ。神社の氏子総代だけじゃなくて、寺の檀家総代たあ、たまげたな」
「仕切りたがりだと、田代住職が言ってましたね。でも、それだけでしょうか」
「まあ、会ってみりゃわかるさ」