「終の住まい」

しかも、紀美子さんの会社は近年、業績が厳しく、給与も高く人数も多い50代の社員を辞めさせたがっています。退職勧奨としか思えないような、無茶な異動や配置転換をやらかします。

今春の異動で、紀美子さんにきつく当たる年下の上司は異動になりませんでした。紀美子さんが来年度以降、異動になる可能性はあります。意に染まない部署に行かされるかもしれませんし、気の合う上司に恵まれるかもしれません。60歳を超えても働き続けられる環境かどうか、紀美子さんに先のことは、まったく予測できません。

もしも60歳で退職するのなら、今回見学したサ高住を、紀美子さんは退職金で払ってしまうつもりです。地方なので、東京に比べると、生活費は安く抑えられます。もし働きたいなら、近くの介護付き高齢者ホームで介護ヘルパーの口があると言われました。

農業は体力的にきついかもしれませんが、近隣の農家には、バイトをさせてもらえるとも聞きました。けれど、……本当にこのサ高住が紀美子さんの「終の住まい」になるでしょうか。

実は、住宅としてはステキだけれど、立地が、紀美子さんには今一つ気に入りません。とても保守的な土地柄だからです。首都圏でリベラルな空気に触れて育った紀美子さんにとって、政治的に保守的な土地は息苦しくなったり、闘いたくなったりしそうです。

ならば、地方のサ高住を選ぶにしても、もう少しリベラルな場所で決める方が精神衛生上は良さそうだとも思います。老後を見据えた「終の住まい」ならばなおのこと、平穏に暮らしたいものです。