老後モラトリアム

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紀美子さんの「老後の設計」は、変数が多すぎて解けない連立方程式のようです。会社にいつまで残って働くのか。定年が延びても、上司や職務との折り合いで、続けられない可能性もあります。逆に、環境が良い職場に異動になれば、65歳まで続けたい、となるかもしれません。

仕事の内容とやりがい、したいことができるかどうかと、60歳以降はどれだけ給料が下がるのか、退職金の金額、そもそも実家の母の健康状態がどうなるか、いつ万一の事態になるか、他の地方にも魅力的なサ高住があるかもしれない、サ高住じゃない家でも良いかもしれない、……どの条件が変わっても、紀美子さんの老後の計画は変わってくるでしょう。

見学に行ったサ高住に住むのか、首都圏の実家に帰るのか、それとも、……。

「うーん。……でもやっぱり、60歳じゃ、まだ会社は辞めない!」と、取材の最後に、紀美子さんは明るく宣言しました。話しながら、いろいろな可能性を検討した結果、やっぱりまだ働きたい、という結論になったようです。

なので、老後の家探しも、あと少し猶予が出来ます。その間、がんばって節約してお金を貯めるのだそう。そして5年後、もう少し予算に余裕ができた時には、もしかしたら実家の状況も違っているかもしれません。その時にまた改めて考えることになるのでしょう。「老後モラトリアム」ですね。