紫式部の重大な役割

『光る君へ』のなかでは、道長は紫式部(まひろ)の想い人であり、ソウルメイト。そこで道長のために、その成功を手助けしようと考えたのでしょう。

紫式部のもうひとつの重大な役割は、『源氏物語』の執筆でした。物語好きの一条天皇が『源氏物語』読みたさに足繁く彰子のもとを訪れる――それによって懐妊を早めるというのが道長の狙いだったのです。

宮仕えでありながら、「物語を書くことも職務のうち」というのも、現代人の感覚ではわかりにくいところ。ましてや、その物語が天皇の気を引くための強力な武器になるというのです。

紫式部の墓所

正直、「えっ?なんで物語が?」と思ってしまいますが、平安時代の王朝文化では、それが当たり前のこと。

『紫式部日記』のなかの「冊子(そうし)つくり」に関する記述を読むと、天皇の寵愛を得るための手段として、物語がいかに重要であったかがわかります。

実家で敦成(あつひら)親王(のちの後一条天皇)を出産した彰子が宮中に戻るための準備をするなか、内裏への土産として、『源氏物語』の冊子を制作することが決まります。色とりどりの紙を選び、そこに物語を書き写したり、清書したものを綴じて冊子にしたり……。こうした一連の作業を紫式部が統括することになったのです。