道長が下書きを盗む

帝への特別な贈り物として『源氏物語』の冊子が選ばれる――それほど、この物語が高く評価されていたのでしょう。

また、この作業の最中に、紫式部が自分の局(居室)に隠していた物語の下書きが盗まれるという“事件”も起こります。どうやら、道長がこっそり持ち去り、娘の妍子(けんし/のちの三条天皇・中宮)に渡してしまったとのこと。人に見られたくない下書きが世に広まってしまうかもしれないと、紫式部は落胆するのです。

それほどまでに道長は、話題の的である『源氏物語』の続きを読みたかったということ。現代の私たちが、人気ドラマの話題で盛り上がるように、平安京の貴族たちも『源氏物語』について感想などを語り合い、続きを読むことをたのしみにしていたのです。

この有名なエピソードは、「源氏物語ミュージアム」で上映されている短編アニメーション『GENJI FANTASY ネコが光源氏に恋をした』にも登場します。

大河ドラマ『光る君へ』でも、きっと何らかの形で描かれるのでは? 物語を盗んだことがわかったとき、道長がどんな言い訳をするのか、それを受けて紫式部(まひろ)がどんな言葉を返すのか――あれこれ想像が膨らみます。