娘たちが「籍だけは入れないで!」と反対
交際半年を経て、生活をともにすることになった際、二人はいくつか約束事をした。隠し事はしない。お金に関してはガラス張りにする。家事は分担。施設で暮らしている80歳になる直美さんの姉、102歳になる信二さんの母親の介護は一緒にやる。
介護のない日の生活は穏やかなものだ。信二さんはジムに行き、プールで泳ぐ。直美さんはダンスに必要な筋肉を鍛えるため、ダンベルで負荷をかけたスクワットやヨガなど、トレーニングをする。夕方、二人でビールを飲むのが至福の時間だ。
シニアになってからの結婚は、家族の反対や、将来的に遺産相続問題が起きないようにという配慮から、事実婚を選ぶ人も少なくない。また、前夫と死別した女性の場合は、再婚すると遺族年金がもらえなくなるので、法律婚を躊躇する人もいる。
直美さんの場合は、次女と三女が「籍だけは入れないで!」と強硬に反対しているため、今のところ事実婚を選ばざるをえない状況だ。
「たぶん、私の遺産が彼に渡ってしまうことがイヤなのでしょう。次女と三女は、彼とつきあうことにも大反対。三女は『いい歳をして、みっともないと思わないの?』と、すごい剣幕でした。『孫にも会わせない』と、汚いものを見るような目をされたこともショックでしたね……」
次女の反応は、「恥ずかしくて、夫の両親にとても言えない」。応援してくれているのは、長女だけだ。「娘たちの反応はつらいけれど、新しい人生を歩み始めて本当によかった」と、直美さんは言う。
「この歳になると、いつ死ぬかわかりません。だから一日一日がすごく大事。彼とは、残された時間を楽しく暮らそうと話しています。本当は結婚したいけれど、強くはこだわりません。勇気を持って婚活に挑むことが、幸せをもたらしてくれる。もし『いい歳なのに』とひるんでいたら、この幸せは得られませんでした」
スキンシップも大事にしており、お風呂も一緒。「セミダブルのベッドで、手をつないで寝ています。私が夜中にトイレで目を覚ますと、必ず起きて、『大丈夫か? 足元に気をつけろよ』と言ってくれるんですよ」と笑顔でのろける。
死ぬ瞬間まで手をつないでいようね、と話し合っている二人。「この先、私が老いてもっと醜くなっても、その気持ちを忘れないでねと彼に言いました」と語る直美さんの満面の笑みが、今の幸福を物語っていた。