開業医になって良い点、悪い点について

――それでは、開業医になって一番のマイナス面は?

私は長く大学病院にいて、研究をすることが大好きでした。ちょっとカッコつけて言うと、私は医者であると同時に科学者でした。サイエンスというのは誰も知らないことを明らかにすることが任務ですから、その誰も知らないことを国際学会で発表したり、英語論文で発表したりするのが本当に楽しかったです。

開業医になると、さすがに研究はできません。これが一番残念なことです。今でも研究をしているときの夢をしょっちゅう見ます。大学には臨床・教育・研究とバリエーションがあります。開業医は毎日、朝から夕方まで外来診療をやっています。変化がありません。ずっと座りっぱなしで、正直、しんどくなるときがあります。

『開業医の正体――患者、看護師、お金のすべて』(著:松永正訓/中公新書ラクレ)

――では、逆によかった点はありますか?

本に詳しく書きましたが、大学病院にはブルシットジョブがたくさんあります。

え、ブルシットジョブですか? 

何の意味もない、ばかばかしい仕事のことです(笑)。大学病院ってプロフェッショナルな医師の集団みたいなイメージがありますが、上下関係の大変厳しいちっちゃな集団です。教授が頂点にいて、医療とは無関係などうでもいい雑用が下へ下へと降りてくるんです。それが本当にイヤでした。

開業医になると一国一城の主です。なにしろ院長ですから。上司からのそういう理不尽な命令は一切なくなります。スカッとして気分は最高です。それから、勤務時間にケジメがあることも大学病院との違いです。うちのクリニックは17時30分に受付けを終了します。その時点で患者さんがいなければ、その日の仕事は終わりです。あとは自由時間ですから、これは天国かと思いました。