医師たちの献身的な働きがあったからこそ
――2024年4月から始まる「医師の働き方改革」では基本的に残業の上限が年間「960時間」に制限されます。開業医への影響はどのようなものになるでしょうか? 地域に根差したかかりつけ医の在り方が変わる可能性はありますか?
ありません。事業主である開業医は上限規制の対象になっていません。それに、開業医の残業が年間上限の960時間を超えることはあり得ません。厚労省のデータによると、日本の開業医の平均年齢はおよそ60歳です。そもそも過労死ラインまで働ける開業医はまずいないでしょう。ただ、医師の働き方改革は、医師だけの問題にとどまらず、患者さんにも関係があると知っておいたほうがいいでしょう。
入院が必要になるような大きな病気を患えば、病院へ紹介されて行くことになります。医師の働き方改革は、病院の勤務医の問題です。これまで日本の医療が高いレベルで維持されてきたのは、医師たちによる献身的な働きがあったからです。あなたが手術を受けたとしましょう。日曜日でも医師が病室に顔を出してくれます。手術の傷の手当てをしてくれたりします。これは明らかに労働基準をオーバーしています。
また、あなたの家族が病気について医師から説明を聞きたいとします。ご家族は仕事が終わってから、夜に病院へ行くはずです。でもこれからは、医師の説明は17時までに済ますことになります。つまりご家族が医師の説明を聞こうと思ったら、仕事を早めに切り上げる必要があります。
医師の働き方改革とは、医療サービスの縮小のことです。医療の恩恵が減るのは当然、患者さん側ということになります。私自身も働きすぎで体を壊し、大学病院を辞めて開業医になったという経緯があります。ですので、この働き方改革を非常に複雑な思いで見ています。医師の命を守るためには仕方ないという気持ちと、医師なんだから体力の限界まで働いて患者に尽くせ、という考えが錯綜しています。