人の怒りや悲しみを受け止め、寄り添う報道をしたい
「ワイド!スクランブル」の一員に加わって、さまざまな災害の被害を受けた方、事故や事件に巻き込まれた方についてお伝えするたびに、あのときのつらさが何度となく蘇ります。
まだ若かった分、私には回復力もあったけれど、年齢を重ねた方々が住む家を失う気持ちはどんなだろう。大事にしてきたものが跡形もなく消えてしまう喪失感はどれほどだろうと思うと、胸が苦しくなります。
同時に、被害を受けたときに受けた温かい一言の大切さも思い出します。ですので、私も中継などで被災した方からお話をうかがう際は、心づかいを忘れないようにしています。
もちろん、その方の本当の苦しみは画面で見ている私にはわかりませんし、わかっているように振る舞うのも失礼なこと。ですが、それでも「このたびは大変でしたね。どうかお体を大切になさってください」という思いだけはお伝えしたいと思っています。
私の体験は、大災害で被害を受けた方々の体験とは比べものにはなりません。しかし、それでも被害者になった体験は、ニュースを伝える際に少しは活きているように感じますし、活かさなければならないと考えています。
あの出来事は、報道に携わる者として他者のつらさを忘れてはいけないよと、神さまが私に教えようとしたものだったのでしょうか。
着の身着のままで寒空の下に放り出されたときの気持ちを忘れることなく、人の怒りや悲しみを受け止め、寄り添う報道をしたいと思っています。
※本稿は、『たたかわない生き方』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
『たたかわない生き方』(著:大下容子/CCCメディアハウス)
数々の人気番組に携わり、2020年には役員待遇・エグゼクティブアナウンサーに就任。人気・実力ともそなえた大下アナがはじめて語る、仕事のこと、生きること、これからのこと。