老後の心配は、同居の親を見送ってから
独身のまま還暦を迎えた女性には、ずっと実家住まいの人も少なくないでしょう。20年ほど前には「パラサイト・シングル」と揶揄されたものです。
当時は経済的にも、家事など生活面でも、親におんぶにだっこ、親の庇護下でしたが、還暦ともなると、関係性はすでに逆転しています。老境の親には頼るどころか頼られていて、生活面でも精神面でも、子は親を日常的に支える庇護者になっています。
そうなると、親を看取るまでは、自分の老後のことなんて考えられません。東北在住の会社員、文枝さん(仮名、61)は、そんな1人です。独りで迎える自分の老後の心配は、同居の親を見送ってからと、後回しにしています。
文枝さんはいま、6LDKの広い一戸建てに、母(88)と2人暮らし。県庁所在地の中心部に近い住宅街に、40年以上前に父が建てた2階建てです。
地方には珍しく、スーパーもコンビニも病院もバス停も徒歩圏内という好立地。文枝さんは車通勤していますが、いずれ車を手放しても生活には便利でしょう。いま母が1階の3部屋を使い、2階の3部屋はすべて文枝さんが使っています。
「モノが多いんですよね~。母は、使えるものは捨てられない、っていう人で。押し入れの中とか、布団や引き出物なんかであふれていて」
かつては両親と兄(64)の4人で住んでいた家です。兄が大学進学で上京した後に父が単身赴任になり、母1人を実家に残すのは不経済だからと、文枝さんは県外への進学を断念。独り暮らしのタイミングも逸してしまいました。結局、61年間、一度も独り暮らしをしたことはありません。
若い時に重い病気をして将来が見通せなかったため、文枝さんは結婚も出産も最初から諦めていました。働いて自分を養うつもりでしたが、地元の短大を卒業した頃は就職氷河期でした。
地方で女性は、就職は超狭き門。なんとかコネで県庁の臨時職員になりましたが、単年度採用で、3年までしかいられません。人づてで建設会社の正社員に移り、15年働きました。