実家でずっと面倒を見たい

ほかにも母は、同世代の女友達や親類らと、健康麻雀をしたり、日帰り温泉に出かけたりもします。そんなふうに活発で、認知症でもありませんが、年々、母の心配ごとは増えています。

先日は、ふと気付くと、下駄箱にしまっておいた文枝さんの高級ブランド靴が2足、消えていました。アルマーニとフェラガモです。「お母さん、あたしの靴、どうしたの」。問い詰めても、母は、「知らない」の一点張りです。

兄も来て調べたところ、押し入れにしまってあった蛇腹式の年代もののカメラもなくなっていました。カメラ愛好家だった父の遺品で、おそらくは値打ちものだったのに。

自宅は、国道からも近く、飛び込みの業者が営業に来ることがあります。母はきっと、飛び込みで訪れた「高額買い取り」を謳うリサイクル業者を家に上げ、家探しをさせて、金目のものを二束三文で売ってしまったのでしょう。数千円程度のお小遣いになったと、喜んでいるに違いありません。

文枝さんは母に、「私がいない間に、勝手に知らない人を家に上げないで。業者に売らないで」と叱りました。でも母はまったく懲りてなさそうで、どっと疲れました。

今はまだこんな喧嘩ができるほど元気ですが、いずれ母はもっと衰えるでしょう。それでも実家でずっと面倒を見たいと、文枝さんは思っています。

仕事柄、顧客の介護施設に行くこともありますが、どんなにきれいでも、施設は施設、家ではないと思うからです。「やっぱり家のほうがいいですよね」。最期は自宅で死なせてあげたいし、自分も自宅で死ねたらいいなと思います。