すっきり暮らしたい

ところで、2階建ての家は、老後、文枝さんが独り暮らしになった時には、大きすぎて維持をするのも大変そうです。文枝さん自身の、老後の住まい計画は? 文枝さんは、母を見送った後の夢物語と断って、「平屋に建て替えるの、良いですよね」と話します。

親を看取った女友達が最近、親と同居していた実家を平屋に建て直しました。平屋は移動も楽そうで、老後も住みやすそうに見えました。運転免許を返納したら車も手放すでしょうから、車庫も要らなくなります。車庫と2階を潰して平屋に建て替えて、部屋もモノも減らしてすっきり暮らしたい、と文枝さんは夢見ます。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)

ただし問題があります。実家は、いまは兄の所有物で、建て替えるなら兄の許可が要るのです。父が14年前に亡くなった時、文枝さんは相続を放棄し、土地・建物とも兄が相続したからです。

固定資産税も兄が負担しています。兄も独身。公務員で、転勤族のため、ずっと独り暮らしです。来春に定年を迎えますが、その後も実家に戻る気はなさそうで、近くに家を買って住んでいます。

兄には、「そっちの家と実家と交換しようよ。私がそっちに住むから、実家に住まない?」と提案しましたが、イエスとは言いません。大きすぎる実家は、兄も持て余すようです。

ならば、いっそ実家を売って、マンションに買い換えたほうがすっきりするのでは? 文枝さんは、そうなんですけれど、と言った後で、実家の土地にこだわる理由を教えてくれました。