70歳まで働くなんて長すぎる

でも今度は業績悪化によるリストラで、事務職の誰かが辞めなければいけないことに。文枝さんは後輩に席を譲り、自らが退職しました。しばらく失業手当で暮らした後、通販会社の営業を経て、いま働く地元企業に正社員で転職しました。41歳の時でした。

それからちょうど20年。パソコンが使えたので事務職採用でしたが、建設会社時代のスキルと経験を生かして、ガタガタだった社内手続きなどを整備。人当たりの良さから営業にも駆り出され、いま営業部の課長です。

業務内容は、ビルの清掃や維持管理など。定年は70歳。まだ9年ありますが、「64歳11ヵ月で辞めて失業手当をもらうのが、一番お得」という話を聞きました。あと3年です。実際に何歳まで勤めるか、いつ辞めるか、考えているところです。

「60代後半の社員もいますけど、若い子が10分で出来ることが半日かかったりする。事務職で何十年も会社にしがみついて、老害にはなりたくない。それに、70歳まで働くと、いざ定年ってなった時に足腰がダメになってて、旅行にも行けないかも。体が元気なうちに、やりたいことをしたいですし」

定年後はどんな計画を? 文枝さんは、「まず旅行」と挙げます。もともと旅行好きの文枝さん。国内では、まだ行ったことのない四国に行きたいし、九州も魅力的。海外ももちろん行きたいです。

特にスペインのサグラダ・ファミリアは絶対見たい。「よぼよぼになってからじゃ、サグラダ・ファミリアに登るのは大変でしょう? きっと楽しくないでしょ」と、楽しそうに話します。体が動くうちに老後を楽しむのなら、70歳まで働くなんて長すぎる、「仕事してる場合じゃないでしょう!」と言います。

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でも、旅行をするにも資金が要るのでは? 「お金はなんとかなるかも。この3、4年、コロナで出掛けてなかったから、貯めるよりも減らなくて。旅行の代わりに、美味しい物を食べには行ってますけど」。

母は父の遺族年金で暮らしているので、文枝さんが実家に入れるお金は少しで済みます。地方の所得水準は東京より低いとはいえ、実家住まいだと、自由になるお金に余裕があるようです。働いて得た稼ぎの多くが住居費に消えてしまう東京の賃貸生活のほうが、異常なのかもしれませんが。