音楽家としての才
その歌集『斎宮女御集』の前半のほとんどは、村上天皇との贈答歌です。
最も古いものは村上天皇との後朝(きぬぎぬ)、つまり結婚の翌朝に交わし合った歌でした。その時点ですでに歌人として完成していて、村上が彼女の和歌を重視していたことがわかります。
また彼女自身も、源博雅(映画では染谷将太さんが演じています)が歌を詠みあげる役を務めた歴代最高の歌合イベント『天徳内裏歌合』をはじめ、宮廷和歌文学が花開いた村上朝を支えた歌人として、自ら歌合を主催。多くの歌人のスポンサーになっていました。
さらに注目すべきは、音楽家としての才能です。彼女の代表的な歌に
「琴のねに峰の松風かよふらしいづれのをよりしらべそめけむ」
(琴の調べに、峰の松風の音が通いあっているようだ。どの琴の緒とどの山の尾から出始めた音が響きあっているのだろう。)
というものがあります。
「徽子女王は村上天皇から直接手ほどきを受けた琴の名手」とする系譜もあるのですが、実は彼女はそれに留まらないレベルの音楽家だったと言えます。