「政策論議」を展開するつもりはなかった

政界が舞台のフィクションを作る身としては、視聴者の「政治」への関心が高まるのは「追い風」だが、反面どうやってドラマの「リアリティ」を担保するか、パート2は前作以上に周到なストーリー展開を用意せねばと痛感した。

放送回数は11回であり1989(昭和64)年1月9日が初回、3月20日が最終回の長丁場である。いわゆる「社会派」ドラマを作る気はなかった。この頃、私のドラマは「社会派」とのレッテルが貼られつつあった。

しかし、その括りには一寸反発したい気持ちがあった。私のドラマは「政治」を題材にはするが、別に「政策論議」を展開するつもりはなかった。「それは、ニュースや報道番組でやってくれ」、私はエンタテインメント・ドラマに徹して、視聴者に「カタルシス」を味わってもらう、これが制作者としての狙いだったのだ。

「天皇のご容体」「リクルート事件」というビッグニュースが、連日テレビで報じられる中で併走するように、ドラマのストーリー構成と制作準備に取り組んでいった。

10月中には、ほぼキャスティングが固まった。

『証言 TBSドラマ私史: 1978-1993』(著:市川哲夫/言視舎)

主人公夫婦は構想通り、渡瀬恒彦と賀来千香子。筆頭秘書が佐藤慶。佐藤の腹心の女性秘書が真野あずさ。渡瀬に常に同行する秘書は田山涼成。派閥担当記者が益岡徹。渡瀬の母親には乙羽信子、中学生の娘が小川範子、そして、派閥の領袖が芦田伸介。

パート1で、小松方正が演じた大物秘書の末永要三は今や政治評論家に転じている(これは、誰にも明らかだったが、あの早坂茂三をモデルにした)。そして芦田、渡瀬の御用達の高級料亭の女将が、加賀まりこという布陣を敷いた。

前作に匹敵するキャスティングが実現した。全11回の中では、総理・総裁や副総裁、重要閣僚も登場する。ここでも大物俳優を起用することになるだろう(実際、総理役には池部良、蔵相役には松村達雄、副総裁役には直木賞作家・胡桃沢耕史を起用した)。

スタッフでは、演出が坂崎彰と竹之下寛次。APは前作でもパートナーだった富田勝典。

ここまでは私の希望通りのシフトだったが、ある日、演出一部(ドラマ部)長の佐藤虔一から「市川、今度のドラマは全員TBSの社員ADで、現場をやってもらいたいんだ。いいよね」といわれた。良いも悪いもない、そうしてくれということだった。