憧れの南極に初めて行き、分かったこと
修士課程の2年間は研究室にあるサンプルを使っていましたが、「フィールドワークに出てみたい」と指導教官の半田暢彦教授に頼みこんだところ、赤道への研究航海に乗船させてもらえることになりました。すると、半田先生が苦しんでいる船酔いに私はまったくならない(笑)。「私は海の研究に向いているのかも」と妙な確信を持つようになりました。
研究室での化学分析は孤独なものですが、船上ではみんなで協力しあってサンプルを採取するので本当に楽しかった。初めて自分で採取した海底堆積物を目の前にして、「これが何万年も前の時代のものなんだ」と感動したことを覚えています。
憧れの南極に初めて行くことができたのは、博士課程1年目のときでした。研究室で取り組んできたセジメントトラップ係留系という特殊な観測機器を使った実験研究を南極の海域で行うので「手伝ってほしい」と要請があり、立候補したのです。
夏隊が滞在する期間の南極の平均気温は、故郷の北海道苫小牧の冬とそう変わらない。まだ20代で体力もあったので、睡眠時間を多少削っても採集や研究に没頭しました。自分の研究以外にも、基地の建築作業を手伝ったり、景色を楽しんだり。充実した1ヵ月半でした。
ただひとつ、残念だったことがあります。それは持って行った観測機器が回収できなかったこと。往路で基地近くの海洋に設置したのですが、海氷とぶつかったのか、潮に流されたのか、復路でいくら探しても見つからなかったのです。
隊長のメインミッションを任されたのに失敗に終わったわけで、帰り道はつらかったですね。ほかの研究テーマも持っていたので論文は書けたものの、このことは苦い思いとしてずっと心に残りました。