怪しさの根源的な理由

とりあえずここまではホテルのオプションみたいなもの。一番のお楽しみは、1階下のフロアである。

鉄扉にはのぞき窓があり期待が高まる。奥を見ると上層の2フロアと同じく仕切りの壁が続いている。どこまでも続くように感じる奥行きが怪しい気配の充満度をいっそう濃くしてくれていた。

扉を開けた。すぐに怪しさの根源的な理由がわかった。煙いのである。タバコの匂いもするし、それ以外の煙も感じられ、気のせいかフロア全体の視界が悪い気がした。

仕切りの壁の色は、俺の宿泊フロアよりも明らかにくすんでいる。というか、床から何から全体的に小汚い。掃除というよりも手入れが不十分なところに経年劣化も加わったという感じだった。

(写真:丸山ゴンザレス)

「ここには誰も泊まっていない閉鎖されたフロアなのか?」と思ってうろつくと、いくつかの部屋の前を通った時に人の気配がした。宿泊者はいるようだ。

実はこのホテルに入ってからスタッフ以外の人間を見ていなかった。それなのに人の気配はするという不思議な感覚があったのだ。その疑問がようやく解消された。それによく見れば、薄暗いフロアのおかげで漏れてくる灯りが確認できる。

この時点(昼ぐらい)でチェックイン済みということは連泊しているはずである。おそらくであるが、ここはある種の常連専門のフロアなのだろう。

それにしては手入れがなされていないのは不思議だった。そして、思考の片隅にはもう一つの可能性、むしろ正解であろうというある考えが浮かんでいたが、断定できる材料を求めて、さらにフロアをうろつくことにした。