ジャーナリストの丸山ゴンザレスさん。危険地帯や裏社会を主に取材し、現在はテレビに加えてYouTubeでも活躍中です。その丸山さんに欠かせないのがタバコ。スラム街で買ったご当地銘柄、麻薬の売人宅での一服、追い詰められた夜に見つめた小さな火とただよう紫煙…。旅先の路地や取材の合間にくゆらせたタバコの煙がある風景と、煙にまとわりついた記憶のかけらを手繰り寄せた丸山さんの異色の旅エッセイ『タバコの煙、旅の記憶』より「ニューヨークで出会った景色」を紹介します。
ニューヨークの安宿で
辿り着いた宿はくすんだ色の建物でボロかった。フロントは急階段を登った先。ニューヨークの安宿にありがちなスタイルだ。
どんな接客をされるのだろうとワクワクしていたが、スタッフの対応は普通。特に感情を挟むこともなく、こちらがバックパックを背負った日本人であることは別にどうと言うこともない感じだった。
鍵を渡されて「部屋は上だよ」と言ったきり、案内するそぶりもなかった。自分で行けということだろう。
まるで刑務所のような重い鉄扉を開けると、また急勾配の階段があった。そこをあがって宿泊フロアに入るには、またまた同じ重い扉があった。扉を開けて中に入ると天井まで達していない壁が大きなフロアを細かく間仕切りしている謎空間があった。
印象としては、まるで遊園地のアトラクションの迷路のような作りだ。
ただし、そこが宿泊施設である証拠があった。ドアに部屋番号が書かれていたからだ。
余談だが、この手の間仕切りスタイルの宿はマンハッタンのリーズナブルなホテルでは珍しいものではない。俺も何度も利用したことがあった。
それなのに俺を若干戸惑わせたのは、とにかくボロくて宿泊施設と思えない暗さからだった。とはいえ、こうなってくるとむしろ特殊な構造とボロ加減のバランスがかえって面白くなってきていた。