視界不良の正体とは
迷路のような構造にも慣れてくると、同じに見えたドアにも違いがあることを認識できるようになった。そして、視界不良の正体を目撃することになる。
ドアを半開きにした部屋の中が見えた。部屋の主人がカセットコンロに鍋を置いて料理をしていたのだ。
部屋主までははっきり見えなかったが、結構な歳上、のびた髪と髭の様子から老人っぽい感じがした。直感的にホームレスみたいだとも思った。
男は俺が見ていることに気がついたようで、半開きのドアをガシっと閉めた。天井を見ると湯気が立ち上っていた。料理は続いているようだった。
白い煙に見えたものの正体が料理によるものだとわかったわけだが、そうなると俺の部屋と変わらないスペースでの料理作業。器用なものである。それが判明しただけでも、この宿の怪しさもいよいよ極まってくるように思えた。
フロアをさらに奥へと回ると、そこかしこに「occupied」と記入されたドアがあった。いずれもゴミなのか荷物なのか。謎の小袋などでいっぱいになって入れなくなっていた。
この手の荷物には見覚えがある。日本で行き倒れの取材をしている時に、知り合ったホームレスたちが同じような荷物の収納をしていたからだ。
先ほどの「occupied」が「使用中」の意味なのか、「占拠されている」のか、どっちの意味なのかを考えながら、この散策で先ほど思っていたむしろ正解であろうもう一つの可能性を確信した。宿泊者の多くがホームレスなのだ。