『アリエスの乙女たち』は1973年から『週刊少女フレンド』で連載。「男にとって行動が第二……」のシーンは、男性からも大きな反響があった(図版提供◎里中プロダクション)

完結までに32年もかかった『天上の虹』では、大好きな『万葉集』の世界を描きたかった。『万葉集』では、男も女も、天皇も流浪の民も区別なく歌が並べられています。かなり先進的です。

誰を主人公にしようと考えて、頭に浮かんだのが持統天皇でした。当時いい印象のなかった彼女の評価を、作品で変えることができたらと考えたのです。

『あした輝く』は、満州(現・中国東北部)から引き揚げてきたヒロインの物語。実際に体験された方たちの話を聞くうちに、記憶がだんだん風化していくのを食い止めねばと思ってね。

男の人にとって、戦いに向かう時に、誰かを真剣に愛することは、ものすごい力になるのではないか。だから、最後までいい形で愛し合っている夫婦を描きたいと思ったんです。

私自身、恋愛経験は少ないのですが、一度結婚しているというのが強みでして(笑)。思春期の頃からの憧れは、好きになる人は一生に1人、その人と添い遂げることだったんです。そんな男性に「出会った!」と思ったので、20歳の時に結婚。でも、3年半ほどで離婚してしまいました。忙しい毎日の中で、次第に気持ちがすれ違ってしまい……。

私は、昔からよく言われる「幸せにするよ」「幸せにしてね」という言葉が、気持ち悪くてね。「2人で人生を充実させよう」ならわかるのですが、「幸せ」なんていう主観的なものを、相手に委ねるのはどうなんだろう。同じ状況でも、幸せだと思う人もいれば、不幸だと思う人もいるわけですから。

同じように、私は「王子様に選ばれて幸せになりました」というシンデレラストーリーも苦手。もちろん夢を見るのはいいのですが、それは美しい花を見て「きれい」と言うようなもの。現実はまったく違います。むしろ結ばれた後から本当のドラマが始まるのではないでしょうか。

私の漫画では、恋愛の美しい面だけでなく、別離や浮気、望まぬ妊娠なども描きます。そのため、「子どもに読ませたくない」と世の親たちから批判されることもありました。でも私は、読者の女の子たちに、自分の力で生きていくことの素晴らしさに気づいてほしかったのです。

私の描くヒロインたちは、「自分で選んだ」という覚悟を持って生きています。何かを選ぶとは、何かを捨てるということ。自分の選択の責任を自ら引き受ける覚悟がなければ、自由に生きていくことはできません。私はそんな「決断するヒロイン」が描きたかったんです。