多様で定義はなくエネルギーに溢れている
【カレーと歌舞伎。片やインド発祥の食べ物、片や400年超の歴史を持つ日本の伝統芸能。なぜ似ている? 同著によると、まず、右近さんがどちらも好きだということ。次に、バリエーションの多さ。そして、定義がないことだという。バリエーションの多さと定義がないことはつながっているようだ。】
カレーも、家庭で親が作ってくれるカレーからプロが作るカレーまで幅広く、家庭ごと、店ごとに特徴がありますし、味わい深い。さらに、いわゆるカレーライスだけでなく、カレーパン、カレーうどん・そば、スナックまでバリエーションは半端ない。では、カレーとは何か。プロや愛する人たちに聞くと、みんな「カレーに定義はない」と言うのです。
歌舞伎も、歌舞伎役者がやるから歌舞伎であって、厳密な意味での定義はありません。決まりポーズの見得や拍子木のつけ、三味線があるのが歌舞伎というわけではありません。最近は漫画やオンラインゲームを原作とした多様な新作歌舞伎も次々作られています。そのような演目に出演した時に、「歌舞伎っぽくない歌舞伎だったね」という感想をお客さまからいただくこともあります。でも、僕は歌舞伎役者として演じているから歌舞伎なのです。
いろいろなカレーがあって、みんな自分の好みで選んで、食べて、楽しんでいる。人それぞれのカレーがある。歌舞伎も、若い人からお年寄りまでいろいろな人に楽しんでいただきたいということで、新ジャンルの作品が生まれている、これも共通点です。
また、両方ともエネルギーに満ちている。カレーはパワーフード。カロリーは高いし、食べると元気が出る。歌舞伎も、あらゆる時代の困難を乗り越えて生き延びてきた力があります。エネルギーに溢れていることも共通していると思います。
このように両方とも多様で定義はないけれど、それぞれ通底しているものがあります。カレーでいえばスパイス。ちなみに、主要スパイスの一つのターメリックは、「ウコン」の一種だそうです。(笑)
歌舞伎役者の場合は、長年をかけて身につけきた振る舞いやたたずまいではないでしょうか。歌舞伎役者は、本名ではなく芸名を名乗ります。芸名は、自分一代ものではなく長年続いてきたものを襲名するのがほとんどの世界。自分は借り物、大きな流れの中で自分がこの時代に請負ってやっているという感覚をみんな持っています。
歌舞伎を「国」に例えるなら、”愛国心”がものすごく強いタイプの人が多いのではないかと感じます。他の俳優さんと違う、歌舞伎役者ならでは振る舞いやたたずまいはそのようなところからきているのではないと考えます。