素っ裸でガツガツ食べた黒毛和牛ビーフカレー

【「僕の仕事の思い出は必ずといっていいほどカレーがセットです」と記している。2017年、「スーパー歌舞伎IIワンピース」の主役ルフィーを務めた。東京・新橋演舞場では昼公演と夜公演の間、食事時間は10分弱。ナイルレストランのムルギーランチをひたすら食べた。名古屋・御園座の時は「ココイチ」のカレー。大阪・松竹座の時は「インデアンカレー」……。「今まで一番、おいしかったカレー」は2020年12月、京都のホテルオークラで出会ったという】

京都の南座の夜の部に出演していたのですが、歌舞伎役者として踊り、伴奏音楽の唄方として清元で参加しました。僕のように役者と唄方の両方をやっている人がいないので、何かあった時に相談できる人はいません。そんな中でメインボーカルの部分を任せてもらい、非常にドキドキ、ヒリヒリする日々を過ごしていました。さらに、クリスマスにやる自主公演の準備が大変でした。

そして迎えた千穐楽。どこかに食べに出る時間がないので、ルームサービスで頼んだのが黒毛和牛ビーフカレー。高いけれどふんぱつ。美味しくて美味しくて、シャワーを浴びた後、素っ裸でガツガツ食べました。「頑張っている、俺って」としびれた瞬間。「もうこれしかないだろう」という感じでした。

この時の舞台では、やはり歌舞伎というのは歌と演技で成り立っていることを再認識しました。「歌舞伎」と書くように、音楽の重要性はすごく高い。だからこそ責任を感じます。お客さんは、踊っている役者を見ていますが、耳から入ってくる情報は音楽。まず聴覚、次に視覚という順番なのです。”耳心地”が良ければ、お客さんの乗りは違うし、役者の演技も変わってくる。わかりやすく言えば、演奏している人たちは「もてよう」と臨まないと張りが出ませんし、役者も「もてたい」と必死です。両者がぶつかりあうことでよい舞台ができる。お互い切磋琢磨して最高のものが出せてノッて来た時の感覚、言葉ではなく、目と目でわかりあう感じがあるんです。

二つの立場に身を置く僕は、その場の空気作りの達人になりたいと思っています。お互い切磋琢磨して最高のものが出せてノッて来た時の感覚、言葉ではなくわかりあう感じがあるんです。

演奏している人たちと役者、両者がぶつかりあうことでよい舞台ができる(撮影◎本社 奥西義和)