撮影:ヤマザキマリ
今やプロセッコDOCワイン保護協会のアンバサダーにまでなったヤマザキマリさんと、プロセッコの縁はーー

付き合いやすい、楽しい友人みたいなワイン

みなさんは“プロセッコ”という発泡酒をご存じだろうか。イタリアの北東部、ベネト州の特定の地域で生産されるこのお酒は、最近では日本にも多くの銘柄が輸入されるようになった。実は先日、私はこのワインの長年の愛飲者としてプロセッコDOCワイン保護協会のアンバサダー(毎月家に送られてくる各社のプロセッコを飲んではSNSでその感想を発信する係)に任命された。

私のプロセッコ歴は長く、絵画の勉強を志す17歳の私をイタリアに呼びつけたマルコ爺さんの家で飲んだのが最初である(ちなみにイタリアでは飲酒の年齢規制はない)。マルコ爺さんはベネト州の山の麓にある小さな街の人だったが、イタリアの人は基本的に地域原産のワイン志向が強く、マルコ爺さんも発泡酒といえばほかの地域のスプマンテではなく、地元で生産されるプロセッコばかりを好んで飲んでいた。一度は爺さんに、わざわざコネリアーノやヴァルドッビアーデネという特定生産地帯まで連れて行かれ、現地のワイナリーで試飲をしたこともあった。

私の夫はそのマルコ爺さんの孫なので、彼も当然のように発泡酒といえばプロセッコ、と迷うことなく答えを返す人である。とはいっても結婚してから我々家族はほぼイタリアの外の国々で暮らしてきたので、そうしょっちゅうプロセッコが飲めたわけではない。そんな時は息子会いたさに地の果てまでやってくる姑にプロセッコを一本だけ持ってきてもらっていた。冷蔵庫で完璧に冷やし、ちょっと口に含んだだけでベネト州のポプラ並木に縁取られた田園地帯や美しいドロミーティの山々、丘に広がるブドウ畑がぱあっと脳裏に広がるあの感覚は、やはりワインのパワーとでも言うのだろうか。イタリアをはじめ、欧州の人々がそれぞれ自分たちの地域で生産されたワインにこだわるのは、それだけ味に強い独自性と郷土色が感じられるからなのだろう。

ちなみに、一昨年の暮れ、フランスのシャンパーニュ委員会のジョワ・ド・ヴィーヴルという賞をいただき、発泡酒好きの私はその時にもらった十数社のシャンパーニュを数ヵ月にわたって美味しく嬉しく飲み続けた。ただ、シャンパーニュは同じ発泡酒ではあっても、イタリアでも日本と同様に、何か特別な時や、いつもより気取った気分で過ごしたい時に飲むもの、とカテゴライズされる傾向がある。プロセッコは値段もお手頃だし、酔い方もスカッと爽やかだから、レストランで昼食を取ると、周りの人もグラスに軽く一杯くらいは飲んでいる。お昼にいただく一杯のプロセッコは食欲を促進するだけでなく、むしろ午後の充実度を上げてくれるので、栄養ドリンクのようなもの、とでも言うべきか。

私にとってお酒は味もさることながら、それぞれの個性を酔いの質で分析するのが好きで、プロセッコはそういった観点からも、くだらない冗談でも大笑いできる、付き合いやすい、楽しい友人みたいなワインだと思っている。イタリアンであろうと中華であろうと和食であろうと食事の種類を選ばないのもありがたい。

ご存じなかった方も、イタリアンを食べに行かれた機会など、食前にまず一杯をおためしあれ。北東イタリアの緑豊かな大自然と明るい地中海の陽光を日本でも手軽に感じていただけるはずだ。