カヤックの後、夫婦で湖を眺めてのんびり(写真提供:石川奈津子さん)
1980年代、「セシル」「You Gotta Chance」「最後の言い訳」など数多くのヒット曲の作詞家として活躍してきた麻生圭子さん。聴力の衰える病気が深刻化したため、エッセイストに転向。その後、結婚し、京都、ロンドンを経て、琵琶湖畔に移り住み、夫婦でセルフリノベーションした水辺の家での生活を楽しんでいるようです

桜は水辺が似合います。少しまだ水は冷たいのですが、この季節になると、湖にカヤックで漕ぎ出す私。実は8年前から琵琶湖畔に住んでいるのです。

琵琶湖の北には有名な桜の名所があります。湖岸の崖沿いに4kmの桜並木が続いていて、沿道はこの季節になると桜渋滞が。でも地元の人たちは渋滞とは無縁。湖上の舟から眺めるのです。湖に張り出した桜の下で舟を止めれば、空から花びらが降ってくる。湖面には無数の花いかだ。桜色の天空、天の川です。

私もそっち側に行きたい。

そんな理由からカヤックを始めました。

まずはスクールで基礎的なことを教えてもらい、マイカヤックを購入。インドア派だった私が、ライフジャケットを着て、パドルを漕ぐのです。60の手習いも悪くない。鍼灸より肩凝りに効くのもうれしい誤算でした。

パドルを置き、じっと浮かんでいると、湖と一体化してくるせいか、水鳥も魚も逃げなくなるんです。360度のパノラマに心の凝りもほぐれ、しあわせかもと思えてくる。

水は辛いことを流し、美しいものを浮かび上がらせてくれるような気がします。

夜明けに向かってカヤックを漕ぎ出し、空が白んだところで、湖岸を振り返ると、桜が浮かび上がっている。霧のような桜。それは幻想的な美しさでした。