3歳の黒猫・麒麟(通称りん)は、1ヵ月半のとき家族に(写真提供:麻生圭子さん)

渡英は58歳のときでした。2匹の猫を連れてイギリスへ。ロンドンはテムズ川のほとりの、家具付きのアパートメントに住みました。流れる川を眺め、セント・ジェームス・パークを散歩し、アンティークマーケットに通い、このまま永住もいいなぁと思っていたら、1年で帰国することに。人生、ままならないものですね。

帰国後は、まず場所探し。テムズ川、ロンドン郊外の森を重ねられる場所探し。

琵琶湖の湖西畔に来たとき、ここだと思いました。

それから家探し。小さな家がいい。屋根裏部屋があるような、小さな小屋。窓からは、湖と森と空が見える家。

廃屋のような小屋を見つけました。蔦に覆われ、沼地のような場所に建っている小屋。でも屋根裏部屋があり、鉄枠の窓があった。夫は一級建築士です。リノベーションすればカッコよくなると確信。屋根や構造的な部分は本職に頼み、スケルトン状態から、セルフリノベーション。その間はワンルームマンションを借り、夫婦(私はときどき)で冬の湖畔に通いました。冬の湖には無数の水鳥(オオバン)が浮かんでいる。ロンドンで毎日見ていた鳥でした。

家が完成したとき、夏になっていました。琵琶湖の向こうから昇ってくる太陽、月。湖面に浮かぶ金色の道。この風景はイギリスにも負けない。

夏の夜空からは、幾千の星が降ってきます。

天の川が見えるのです。

過去も荷物も聴力も、捨てたからこそ出会えた場所でした。

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