本堂を出て山門までやってくると、抗議集団の姿はなかった。藤堂が約束を守ってくれたようだ。
 田代住職に別れを告げ、阿岐本と日村は車に戻った。
 事務所に向けて出発すると、阿岐本はすぐに電話をかけた。
「ああ、永神か。ちょっと調べてほしいことがある。例の宗教法人ブローカーだが、どうやら高森浩太というやつらしい。何者か洗ってくれ」
 そして阿岐本はすぐに電話を切った。
 くどくど説明する必要はない。あれだけで、永神はすべての事情を察するはずだ。
 事務所に戻ったのは午後一時頃のことだ。
 阿岐本が言った。
「腹が減ったな。誠司、昼飯の出前を取れ」
「何にしますか?」
「最近じゃ排除条例でうちに出前してくれるところは限られているな……」
「はい」
「『矢七(やしち)寿司』なら出前してくれるだろう」
「だいじょうぶです」
「じゃあ、若い衆の分もな」
 阿岐本は奥の部屋に引っ込んだ。
 健一と真吉の姿がない。彼らは、目黒区伊勢元町に行っているのだろう。
 テツはいつもと変わらず、パソコンに向かって何かやっている。稔は車を駐車場に入れている。
 日村は自ら『矢七寿司』に電話して、上握りを一つ、並を三人前注文した。