義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 池中が言った。
「ほら、脅しをかけてきた。これがヤクザなんですよ」
「脅してはいません」
 阿岐本が言う。「事実を言っているのです。誰だって、失礼なことや理屈に合わないことをされたら、腹を立てるでしょう? 我々だって同じことです」
「そうだ」
 田代住職が言った。「何もしていないのに、出ていけなどと言うのは失礼なことだし、理屈に合っていない」
「何を言う」
 池中が言った。「暴力団が寺に自由に出入りすることなど許されるはずがない」
「寺は誰も拒否しません。誰でも参拝できるんですよ」
「暴力団は別だ。暴対法や排除条例という決まりがあるんだから……」
「暴対法というのはね、暴力団が威力を示して不当な行為を行うことを禁止しているんだ。阿岐本さんはこの寺で不当なことを何一つしていないので、暴対法違反になんてならないんだよ」
「今、俺たちを脅したじゃないか」
「脅していない、事実を言っている……。阿岐本さんはそうおっしゃっている」