義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。

 町内会役員と池中が本堂を出ていった。
 大きく溜め息をついて、田代住職が言った。
「やれやれ、失礼なやつばかりで申し訳ありませんなあ」
 阿岐本がこたえた。
「とんでもねえ。こちらこそ、ご迷惑をおかけしちまって……」
「原磯のことですがね。私なりにちょっと調べてみました」
「それは助かります」
「あいつは、高森浩太(たかもりこうた)という男と付き合いがあるようで、どうやらそれが宗教法人ブローカーらしい」
 阿岐本は驚いた顔で言った。
「昨日の今日で、よくそんなことがおわかりになりましたね」
 日村も驚いていた。
「檀家にはいろいろな方がおられますからね。この情報は、原磯と同じ不動産業者の方から聞いたんです」
「なるほど、寺の情報網はヤクザ顔負けですね」
 ヤクザは情報産業だと、日村は思っている。寺もそれに匹敵するということか。
 田代住職が言った。
「昔から寺は、地域の情報を一手に握っていたんですよ。過去帳なんかも保存しておりましたから。地域の不動産情報を持っている寺もあります」
「なるほど、寺ってのは貴重な存在ですなあ」