朝の音から消えた音

しかし、ひとつだけ朝の音から消えた音がある。それは、妻が台所で朝食を作る音だ。

まな板の音。お味噌汁を作る音。卵焼きを焼く音。ご飯が炊ける音。そして、妻の「ご飯できたよ〜」という声……。

当たり前に聞こえていた音は突然消えてしまった。

姿も消え、声も消え、音も消えた。すべての存在が、この世から消えた。死ぬということはこういうことか……。

あの日から、我が家の台所は静かになった。そして、静かになった台所に、今は私が立っている。

※本稿は、『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(大和書房)の一部を再編集したものです。


妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(著:ぺこりーの/大和書房)

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