人生に楽園を求めるならば

しかしそれは、テレビの画面から見えるただのイメージである。

本当のカフェの経営は、回転率が悪いので難しいビジネスであるし、農業なんて、災害列島の日本では地震や台風や豪雨がない年はまずないので、作物を作る技量があったとしても収入がお天気や自然任せという世界である。そこに素人が入っていくのは、普通に考えてもたいへんリスキーなのは、誰でもわかることだろう。

リタイアしたご夫婦が仲良く作物を収穫しているシーンなどはテレビ的にはいいけど、それで本当に飯食っていけるの?? もっと言うと、ちゃんと生活できるほど稼げているのか?? と思ってしまうリタイア組が、この番組を見ているとたいへん多い。

村人全員が毎日お店に来てくれたとしても売上がたかがしれているようなカフェや、家庭菜園に毛が生えたような農業では、到底生活できるとは思えない。

一度収録した楽園の住人たちの、その後の暮らしぶりを放映しているのを見たことがないので、ずっと楽園に住んでいらっしゃるのかどうかは疑問だ。いつの間にか楽園から出稼ぎに行っている人や、楽園から安アパートに引っ越した人たちもいるのではなかろうか。

やりたいことをやったらそこが楽園になるのではなく、やりたいことで成功したらようやくそこが楽園になるのだと思う。

老後の貯金をはたいて始めた新しい生活は、その投資金額を回収することすらなかなか厳しいと思われる。だから、老後に楽園に住める確率はかなり低いはずだ。

人生に楽園を求めるなら、今が楽園であることにまず気づくべきではないだろうか。

※本稿は、『妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(大和書房)の一部を再編集したものです。


妻より長生きしてしまいまして。金はないが暇はある、老人ひとり愉快に暮らす』(著:ぺこりーの/大和書房)

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