時事問題から身のまわりのこと、『婦人公論』本誌記事への感想など、愛読者からのお手紙を紹介する「読者のひろば」。たくさんの記事が掲載される婦人公論のなかでも、人気の高いコーナーの一つです。今回ご紹介するのは鹿児島県の70代の方からのお便り。ある日、病院の待合室で、不思議な声が聞こえてきたそうで――。
痛みに感謝を
病院の待合所で、「アーン」という声が聞こえてきた。切羽詰まった声ではない。「ウーン。アーン」の次は、「ターヨー、タタタ」。よく聞いていると、息継ぎの時に漏れ出る声のようだ。高齢の女性の声。
見わたすと、90を超えたくらいの女性が一人座っていた。周囲の人は、慣れているのか平気な顔。その後も続く「ウーン、アーン、ウー、タァーヨ」。《痛いよ》という意味か。しかし看護師が時折確認している様子から、異常はないようだ。
年齢とともに目は見えづらく、耳は遠くなり、歩くこともままならなくなっていくのは、多くの人が通る道である。私も半年ほど前から突然右膝が痛くなり歩けない状態で、現在リハビリに通う身。痛さに負けそうになると、「クソッ」と声が出てしまう。
その様子を見た、大病を克服した経験を持つ友人が、「だめよ。今はあわてず、あせらず、転ばないように、体が痛みを感じさせてくれているの。だから痛い時は、『ありがとう』と言うのよ」と言う。
私が90歳になったら、「クソクソッ」と連呼するのだろうか。「ウーン、アーン」のほうがまだ可愛いかもしれない。
「ありがとう」と言えなくなったら「アーン」でいいだろう。痛む足を両手でさすりながら、「ありがとう」と言ってみた。