懸命に働いて生じた糧は、明確に見えない

“真の力は見えにくい”と言う。

私も若い時にそう聞かされて、何を言ってるのかさっぱりわからん、と思った。

自分が懸命に働いたことで生じた糧がどんなものか、明確に見えないのである。

解り易いのは、数字であり、カードにあると若い人が主張するのは当然だろう。

収入の高がボクの、ワタシの、働いたことを証明していると断言する若者もいる。

果してそうだろうか?

やはり若い時に、私の周囲にも、若くして思わぬ収入を得た者がいた。

チヤホヤされ、果ては世界は俺の物だと豪語していた。

しかし何年かすると、そういう連中は必ず消えるか、果ては詐欺まがいのことを続けて終った。

※本稿は、『風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』(講談社)の一部を再編集したものです。


風の中に立て ―伊集院静のことば― 大人の流儀名言集』(著:伊集院静/講談社)

作家・伊集院静さんが、生と死、冠婚葬祭での作法、大人の遊び方・働き方について語った言葉の数々を収録。

伊集院さんの言葉が、生活のさまざまな局面で、きっと人生の支えとなるはずです。