(写真提供:Photo AC)
新型コロナウイルスが令和5年5月8日に「5類感染症」に位置づけられてから、1年が経過しました。令和6年3月末には治療薬や入院の公費支援が終了し、猛威をふるったコロナ禍から徐々に日常を取り戻しつつあります。そのようななか、JT生命誌研究館名誉館長の中村桂子さんは「ウイルスとは何かを考えることが、これからの生き方にとって大事」と話します。今回は、生命科学研究の草分け的存在である中村さんが、ウイルスとの向き合い方をまとめた著書『ウイルスは「動く遺伝子」』より、一部ご紹介します。

感染症を心配しなくてもよい社会

ウイルスは肉眼では見えませんし、通常の顕微鏡でも見えません。それだけでも扱いにくいのに、ウイルスはなかなかしたたかで、分かりにくいものなのです。

そこで、普通の暮らしの中でのウイルスの登場場面を考えると、風邪が浮かび上がります。風邪にかかったことがない方はいないのではないでしょうか。風邪はウイルス感染症です。

生きている以上、病気は避けられません。誰もが健康には関心がありますから、メディアでの発信にも、医療や健康の情報は多いですね。今は専門家も普通の人も、関心の多くが生活習慣病に集中するようになっています。

がんは気になる病気ですし、高血圧、糖尿病、高脂血症などの薬を飲んでいる人は少なくありません。高齢社会ですから認知症も問題です。

けれど、感染症の話題はほとんどありません。専門家も普通の人も、病気のことを考える時に、感染症を特に心配しなくてもよい社会になっているということです。