その判断を信じている

主席である家元は何ぞてえとこの首相に相談をする。

『芸談-談志百選』 (著:立川談志、イラスト:山藤章二/中公文庫)

「あの女どうかネ」

「よしたほうがいいネェ」

「あそこの料理は……?」

「駄目だネェ……」

この程度の相談が主席と首相の相談の内容である。けど女と食い物は大切だ、ま、いいか……。

時には酒に流されて芸談、人生談ともなる。場所はたいがい銀座のBAR「美弥」ときまっていて、ここがわれ~~仲間の、そう四十年近くにもなる巣であって、ここで会談が始まる。

中尾彬はいつも一人、たいがい一人、“ふらっ”と入ってくる。

「俺はいつも独りだ」といわんばかりのポーズが見える。その頃はもう家元酔っている。

「松本人志っていいネ、いいだろ」

「正解(あっ)てるよ」

「これは、こうだろ」

「そうかなァ……」

中尾彬の答えはこの二つ、これで周恩来の役は完了。

疲れると家元周首相に判断をゆだねまかせちまう。楽でいい、そしてその判断を信じている。