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昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ――という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。

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元会社経営者の紀久子さん

ときに人生は、計画が狂うものです。想定外の事態が起きたりします。そういう時に支えるのがセーフティーネット、社会保障です。いくら将来の年金が当てにならないといっても、国家が胴元だけあって、今のところ破綻はしていません。額は減っても、きちんと支払われています。

そして実際、公的年金に「リタイア後の暮らし」を支えられる人もいます。九州で会社を経営していた紀久子さん(仮名、65歳)は、死ぬまで現役で働き続けるつもりでした。けれど還暦の年に会社が倒産、紀久子さんは現役から「強制退場」させられました。自宅も失い、資産も奪われ、夫も子もなく無職と、すべてが「ゼロ」になって世間に放り出された彼女の生活を救ったのは、たまたまのタイミングでしたが、国の年金制度でした。

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いまの部屋に元会社経営者の紀久子さんが引っ越して来たのは春でした。九州の県庁所在地の市内中心部にある分譲賃貸マンション。1階のエントランスには小さな花壇があります。そこに、赤い花がばーっと咲いていました。それを見て、紀久子さんは思いました。

「ああ、ここも良いかもしれない」

5年前、2019年の4月のことです。新居が少し、楽しみに思えました。すごくつらかった引っ越しでしたが、ほんの少しだけ前向きになれた瞬間でした。その前に住んでいたマンションはビル街のど真ん中で、樹木も花もありませんでしたから。以来、紀久子さんは、この賃貸マンションに住んでいます。