手放した家は汗と涙の結晶、苦労と成功の証
以前の自宅は、紀久子さんが30歳そこそこで購入した中古マンションでした。ローンは「死ぬほど高い」変動金利7.5%。当時の会社でかなりの高給取りだったので、ローンを組んで買えました。紀久子さんの汗と涙の結晶、苦労と成功の証、と言っていいでしょう。
中古でしたが、市内中心部にあり、とても快適で、自慢の部屋でした。会社員を辞めて起業した後も、もちろん紀久子さんは住み続けました。友だちも同じマンション内に引っ越してきました。会社にも近かったため、社員たちを招いてホームパーティーもしたものです。
20年も住んで古くなってきた頃には、紀久子さんは買い換えも検討しました。でも良い物件が見つからず、「老後までずっと住もう」と考えて、「ホテル仕様」にリフォームしました。トイレや洗面など水回りを最新式に替え、床のフローリングも無垢にしました。とても愛着のある、大好きな家でした。紀久子さんの人生そのものが詰まった家だったのです。
会社の経営悪化は、紀久子さんは倒産の5年ほど前から認識していました。でも業績の悪化は止まりません。紀久子さんはいつしか笑わなくなっていました。いま振り返ると、鬱だったと思います。