家賃はいま月8万5000円

今の部屋は南向き、2LDK、67平米。2つの居室は寝室と物置にしています。前の部屋で使っていた立派な大きなソファは入らず、泣く泣く諦めました。ほかの大型家具も、部屋に入りきらずに手放しました。家賃はいま月8万5000円。この地域にしては高額ですが、仕方ありません。そもそも選択肢がありませんでした。ここしか貸してもらえなかったのです。

というのも、紀久子さんは当時、会社を畳んで無職でしたから。銀行の担保に入れていた自宅マンションを明け渡すために、急遽、賃貸物件を探したのです。

紀久子さんは地元で、約30年も会社を経営していました。ところが社会情勢の変化などで業績が悪化。運転資金が足りなくなり、融資を受けるために、自宅マンションを担保として差し出していました。両親が他界して親戚に貸していた実家も、担保に入れました。経営努力もしましたが、その約2年後の2019年1月、ついに会社は倒産しました。

担保に入れていた自宅マンションも実家も、銀行に抵当として差し押さえられ、手放しました。「ほんとうに辛かった」と紀久子さん。自分の「城」である自宅マンションを明け渡すのは、我が身を裂かれるほどの苦しみでした。

『老後の家がありません』(著:元沢賀南子/中央公論新社)