(『燕は戻ってこない』/写真提供:NHK)
作家・桐野夏生原作の『燕は戻ってこない』がNHKの火曜10時枠でドラマ化されている。29歳、女性、独身、地方出身、非正規労働者という「弱者」の女性が、裕福で子どものいない夫婦の「代理母」を頼まれ、お金欲しさに悩みつつも「卵子と子宮を差し出す」ことを決意する。『OUT』から25年、女性たちの困窮と憤怒を捉えつづける作家による生殖医療や倫理をテーマにした作品の映像化だ。

登場人物の誰にも共感しにくい異色作

NHK『燕は戻ってこない』(火曜午後10時)は質の高いドラマである一方、異色作でもある。

なぜ、異色かというと、最近のドラマの大半が失ってしまったリアリティが隅々にまである。また、一方通行のドラマではなく、観る側に現代社会に横たわる諸問題を考えさせる。なにより異色なのは、登場人物の誰にも共感しにくいのだが、それでいて強く惹き付けられるところだ。

主人公は病院の事務職員として働く29歳の派遣社員・大石理紀(石橋静河)。北海道北見市出身で手取り給料は14万円。ワーキングプア状態にあるため、元世界的バレエダンサー・草桶基(稲垣吾郎)とイラストレイター・悠子(内田有紀)夫婦と代理出産の契約を結ぶ。44歳の悠子は不育症によって出産をあきらめるしかなかった。

理紀への報酬は計1000万円。産まれた子供はすぐ夫妻に引き渡すことになっている。ほかにも条件があった。代理出産に関する秘密を守ること、アルコールは口にしないことなどである。これらを理紀は承諾した。目的は金だけだった。

「腹の底から金と安心がほしい」(第1回)