それぞれの身勝手な思惑が交錯

無理もない。理紀は築古のアパートに住み、テレビすら持てず、外食といったら、コンビニのイートインで食べるカップ麺ぐらい。生涯独身で、自分をかわいがってくれた叔母の佳子(富田靖子)が亡くなった際も、北海道までの航空券代がなくて葬儀に行けなかった。

一方、基は子供を熱望しているが、その理由は自らの才能を受け継がせるため。やはりバレエをやらせて、一流にしたいからだった。

「オレのDNAの証明だから」(第2回)

基の母親・千味子(黒木瞳)もまた元一流バレエダンサーで、同じく子供を強く望んでいる。しかし、養子でもいいと考えていた。自分と基が運営しているバレエ教室などの財産を、悠子の親族に渡したくなかったのだ。

千味子は、基が前妻・カナ(夢咲ねね)と婚姻中に不倫し、自分が妻となった悠子を軽蔑している。その親族を自分より格下に見て、嫌っていた。

(『燕は戻ってこない』/写真提供:NHK)

悠子は子供を持たなければ千味子から基と別れさせられるという恐怖で、渋々基の代理母の提案を受け入れ、育てる決心をするが、複雑な思いを抱えている。

この3人には産まれてくる子供への愛情らしきものが見当たらない。独立した新たな命が産まれてくるという意識もない。それぞれが身勝手な思惑で子供を欲しがっている。だから共感しにくい。