なんでこんなガラクタのような細々したものを後生大事に溜め込んでいたのだろう。
でもよく見ると、たしかに剥げたり古びたりはしているが、顔の表情やきものの柄にいたるまで、実に丁寧に描かれている。こんなに小さな人形や小物を作った職人がいたのかと思うだけで感動するではないか。
きっと、幼い頃から私にとってはこれらすべてが宝物だったのだ。そして歳を重ねるに従って制作者の気持に思いを馳せるようになり、おいそれと捨てる気が起こらぬまま、半世紀以上の月日が流れた。
小学生の頃、友達の家に遊びにいって仰天したのを思い出す。生まれてこのかた、高さ三センチのおひな様しか見たことがなかった私の前に、自分の背丈よりはるかに高いひな飾りが飾られているのを目の当たりにしたからだ。
七段もある。しかもそれぞれの人形は、ひっくり返したご飯茶碗よりはるかに大きい。色もきらびやかで豪華絢爛だ。
「へえええええ」
私はしばし見とれた。すっかり負けた気分に陥った。他人様の家ではこんなに大きなひな人形を飾るものなのか。
しかしウチへ帰って、小ダンスの上に飾られた母の小さなひな人形を見つめるうちに、
「こっちのほうが好きだ!」
はっきりとそう思った。以来、私はどんなに立派なひな人形を見かけても、羨ましいとは思わなくなった。そして母の古びたひな人形を一生、大事にすると心に決めた。