藤堂家の男女格差
実家は、JRの駅からバスで15分ほど。車がないと不便な立地です。ただ、藤堂家は、先祖が農家だったため、周辺に広く土地を持っている代々の土地持ち。実家の建つ土地も広く、父は賃貸アパートや借家などの大家業もしていました。その父は、真紀子さんが実家に帰った年の夏、他界しました。80歳でした。長命の家系なので、もっと長生きすると思っていたのに、意外にも、あっけない別れでした。
父の死後、土地や現金などの遺産は、母と長兄(68)が税理士と相談して、相続割合を決めました。実家は藤堂家の本家で、家屋敷や墓も含めて、財産は曾祖父―祖父―父―長兄と、長子が相続し、適切に運営して次世代に継承することになっています。家のことは父が1人で、責任を持って決めていました。「次兄も姉も私も、口は出しません」。長兄は父から、家を守り継承する役割を引き継ぎました。
相続でも、藤堂家の財産である主な土地は長兄が受け継ぎました。母は、父が管理していた借家を相続し、次兄(65)にも土地が分配されました。次兄は、相続した先祖代々の土地をあっさり売って他に買い換えたため、親族らを唖然とさせました。いっぽう真紀子さんと姉は、ほとんど財産らしい財産をもらえませんでした。
「均等じゃないんです。藤堂家には男女格差があって。姉と私は、二人で一つというか、一人前にみなされてないんです。女の子には分けなくてもいい、っていう考えなんです」。戦後の民法では、親から相続する財産は、配偶者が半分、残りの半分は子どもが頭数で割って、平等に分配する権利があります。けれど藤堂家では、家の資産を守るために、主に男子が相続します。「母と姉と3人で住んでいる実家は、いまは母の名義です。ここをいずれ、姉と私が共同名義で相続することになるんでしょうけれど……」
とはいえ、藤堂家は土地持ちです。例えば、母が相続した借家に、真紀子さんが老後に住めば良いのでは? 「いまは人に貸していますけど、借家は老朽化してて、もうボロボロ。母が管理できなくなった時には潰します。だから私は住めません」